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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
という感傷に堪えられない。
白雲が出て行ったのは戻るために出て行ったのである。七兵衛が帰って来ないのは帰りたくてたまらないのが帰れない事情に妨げられているということを、駒井はよく知っている。それだのに、人が去って行くという淋しい気持を、如何ともすることができません。
マドロスと兵部の娘に至っては論外であるけれども、それですら、離れて出て行ってしまった人間には相違ない。彼等の放縦と、我儘と、不謹慎とで背いて去ったのだから、こちらに責任が無いと言えば言うものの、自分の周囲に人を引きつける徳がなく、人を容れるの量がないのかということを想像してみると、駒井といえども、いとど心淋しさを催さずにはおられないのでしょう。
古来英雄というものには、みな人を引きつける一つの力を備えている。憎まれながらも、恐れられながらも、人がそれについて行く。人がそれから離れられないという力があるものだ。然るに自分は――英雄であるとはうぬぼれていないが、自分に附く人よりも、自分から離れる人の方が多く、自分のよしと信ずる理想が、人から喜ばれるよりも、人から斥けられるものばかりが多いように思われてならない。