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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
思案の種はそれでした。
「女賢シウシテ牛売リ損ネル」という俚諺は、日頃、耳目に熟していながら、さて、これを紙に書いて、その解釈を附する段になって、神尾がハタと当惑したのであります。
この語の表現する意味は、女というものは、賢いようでも抜かりがある、いや、女の賢いのは、賢いほど仕損じがあるものだ、だから女の賢いのは危ない、女を賢がらせてはいけない――という戒めになっているのだが、さて、これが出所はどこか、支那から来たのか、和製か、その故事来歴を知りたい、普通、会話として、常識としてでは、そんな詮議立てをしないでも通るが、著作として世に示すには、そんなことではならない。そこで、神尾が首をひねったのは、それを知るべく、いかなる参考書によったらいいかということの思案でした。
「曲亭の燕石雑志なんぞにありゃしないか、あれは物識りだから」
と言ってみたが、あいにく、ここにはその燕石雑志もない、三才図会もない、どうも、この牛売リ損ネタ実例の出典に思い悩んでみても当りがつかないのであります。ついに神尾は一応断念して、
「明日あたり、市中の本屋をあさってみよう」
そこで筆をさし置いて、また庭の面をぼんやりとながめていました。