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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

五

川を渡りきって、白雲、途すがら思うよう、さては、駒井も洲崎にいたたまれなくなったのだな、どちらにしても、あそこが永住の地でないことはわかっているが、しかし、あわただしく出船を余儀なくされたというのは、駒井にとっては不祥だ。

人間、馬鹿では楽ができないけれども、また、あんまり頭が進み過ぎていても、楽はできないものだ。駒井ほどの英才が、当世と相容れないのは、これも一つの人間界の約束ごとかも知れないが、由来、独創の気というものは不遇の茨の中から開けるものだから、駒井のこれからも前途の方が、なまじい衰えかけた幕府のお役人をつとめて当世に時めいているより、どのくらい意義もあり、興味もある生涯か知れないのだ。

思いきって、この石巻へ来たとか来るとかいうのは、この際、よいことを聞いた、またよいことを知らせてくれたものだが、あの知らせてくれた蛇籠作りの老爺こそ、全く解せないへんな奴だよ。なんにしても近々思いがけないところで駒井に逢えるのだ、そうして、もはや、自分に於ても、房州へ取って返す必要はなくなってしまったのか――それはいいとして、房州にはかなり自分としての財産を残して来たはずだが、あれはどうなったろう、まさか暴民どもに焼討ち、掠奪の憂目を蒙ったとも思われないが、いや、蒙ったにしたところで金目