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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「そうだ、女で有名な学者――それに家はなかなか金持の商家ということだから、そこをたずねて来ればわかるだろう。もしまた、別に宿を取った時は、その家へ申し置くから、わかるようにして置く」

「よろしうございます、私は、只今のところ、仕事が少々忙しうございますから、今晩――夜分も遅くなるかも知れませんが、必ずお伺い致しますから、おかまいなく、お休みになってお待ちくださいませ」

「うむ――では」

と言っているうちに、右の蛇籠作りは、大忙しがりで、ついそこの柳の木の下へ引込んでしまい、そこで、以前の通り一心に蛇籠を編み出したものですから、白雲も、ちょっと手のつけようがなく、そのまま川原道を急いで行くと、やがて、前から来た槍の同勢と、後から来た岡っ引の連中との間にはさまれたような形になりました。

だが、別段、問題は起りません。白雲は川原道で、この前後の勢を無事にやり過して、自分は悠々閑々と歩いて行きながら、ふと、柳の木の下を見ると、蛇籠作りが一心不乱に蛇籠を編んでいるのがかすかに見られて、別段の異常を認めません。

槍の一隊はと見ると、もう向うの岸についてしまって、自分が語学の稽古をした一ぜん飯屋の庇に槍を立てかけて、それぞれ休んでいる姿までが、豆のように見えているだけのものです。