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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
「そうか知ら……」
その時、田山白雲が、茂太郎の面を睨みつけるように見詰めて、そのくせ、心は玉蕉女史の家の離れのあの一夜のこと――王羲之の秘本を土産に持って来ると誓った、夢のような、幻のような場面に集中しないわけにはゆきません。
そうして、その夜の、あのおやじの怪挙動を、逐一ここで話したがよいか、もう暫く話さないでおいた方がよいのではないか――と、猶予し、且つ思案せしめられました。
十二
問題の七兵衛は、その日は観瀾亭の床下に昼寝をしておりました。
七兵衛が昼寝をするということは、盗人の昼寝という本文に合致することだから、あえて異とするに足りないが、特にこの月見御殿の観瀾亭の床下を選んだというのは、どういう了見であるか。この床下の上には、田山白雲の憧れの的となっている古永徳か、山楽かが、絢爛として桃山の豪華を誇っているのですが、七兵衛にとっては、特にこの床下が離れられないほどの魅力となるべき理由はなんにも無いはずです。七兵衛としては、別段、永徳でなければならないという見識も主張もないのですから、ところもあろうのに、この床下に昼寝の巣を選んだのは、偶然か、然らずんば何か商売上特別の便宜がなければなりますまい。