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てんさいけいまい

天才兄妹

野村 胡堂

「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页

青空文庫

「オウ、これは何うだ、これだけ入って居れば、ヴァイオリンの音も悪くなるわけだ」

「ウーム」

「大変な事になったネ、このダイヤは何百万円の値打があるか知らないが、兎に角、我々では、見当もつかない大身代だぜ、これだけあれば、ストラドヴァリウスは百も買えるだろう、君はたった一と晩で夢のような大富豪になったんだ。お目出度う――」

香椎六郎はこう言って剽軽なお辞儀をしました。

「だけれど、ストラドヴァリウスはどうしたんだ、昨日まで確かに真物だったんだが――」

幾久雄はまだあきらめ切れません。

「馬鹿だなア、そんなものは諦めてしまいたまえ、ストラドヴァリウスなんか、百も買えると言ったじゃないか」

「だが、あれは何うするんだ今日の演奏は、あれ、あの通り」

客席からは、開幕を促す拍手が、一分毎に激しくなるばかり、

「仕様が無いなア、入場料を払い戻して、帰って貰えばいいじゃないか」

「そんな事は出来ない、そんな事は――」

幾久雄の心は、永久に失われた名器ストラドヴァリウスを追って、この何百万円にも積られる、見事な十箇の宝石も眼には入りませんでした。

「お兄様、お兄様」

信子だけが、この兄の心持を知って居るのでしょう。