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てんぐ

天狗

大坪 砂男

「宝石 七、八月合併号」岩谷書店、1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

てしまった。

第三の着想は、夕刻の散歩路である水無沼であった。この粘土質の沼の中央に喬子を頭から突込むことができれば、即死は勿論のこと下肢の観覧にも頗る効果的であるし、もはや動かし得ない妙案と信じられた。そこで、不合理を退けつつ丹念に考究することにしたのだ。

ここでちょっと宿を中心とする三つの散歩道について述べておこう。表玄関に相当する土間を出て右の方、少しばかりの畑をよこぎってだらだら坂を登り、渓川沿いの登山路を見下すかたちに白樺の林に入れば平坦な径が滝の上に、そこを曲ったあたりから自然の小公園といった趣きのある笹原になって、ベンチも二つ三つしつらえられ、遙か麓に平原はひらけ、晴れた日は北アルプスの連峰がくっきりと、これは閑雅な散歩道である。

次は、宿の裏手の崖上に天狗の祠があって、ここから一気に百メートル登り切ると荒山神社の一の鳥居が年々の風雪に晒されながら、でも処々に朱の色が褪せ残っている。この先が名にし負う岩参道の、地面があるかと思えば湿地帯で季節には水芭蕉の茂みに蝋燭のような花を並べるとか。女の喜ぶ高山植物はこのあたりに一番種類は多くとも、いつも炭焼の丁々たる斧の音がどこからとなく木魂して、独り歩きは男でさえ、その日の空模様どんよりと雲ひくく飛ばれては、足の竦み勝ちな不気味さがある。