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てんぐ

天狗

大坪 砂男

「宝石 七、八月合併号」岩谷書店、1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

第三の路は、前庭の左外れに架かった板橋を渡って渓川に従いながら進めば山毛欅の林にかこまれた丘の中ほどに芝原――と見えるのが謂ゆる水無沼、この沼を広く一周する路の夏草もいつか踏みならされて、梢の葉のそよぎきらきらとしながらも日蔭づたいに、これは快適な散歩道であった。

水無沼と名をきけば赤土のひび破れてかさかさな、さもなくともとろりと鈍く光った泥沼を思わせるし、事実一皮下はどろどろの濃厚な一足踏込んだら抜き差しならぬねば土の正体に変りはないが、見た目の爽けさ、烈日の色耀かしい五百坪ほどの緑楕円盤なのだ。その緑青と白緑をこきまぜたと見えるのは総て蘚で、その上に赤蜻蛉が群れている。人の気配にも一向に飛び立とうとしない面白さに腰を落して手をさし伸べて始めて気がつく、これがいずれも屍体ばかり。怪しと見廻せば、そこら一面、目の玉と薄い翅。これだけが消化されずに残っている。蘚は食虫蘚なのだった。

思うに無数の赤蜻蛉の精霊に守られるなら、さぞや喬子の誇にもふさわしかろうと――この赤蜻蛉が赤鼻の天狗を連想させ、天狗が天狗飛切の術を着想させた。

もともと天狗とこの温泉場とは深い縁があって、昔々の大天狗とやらがこのあたりの山々を馳せ廻り、足跡の一つから熱気を噴いたのが温泉となり、一つに水が溜って沼になったとか、現に天狗を祭っ