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てんぐいわのさつじんま
天狗岩の殺人魔
山本 周五郎
「少年少女譚海」1938(昭和13)年春の増刊号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,872 字 · 18 页
――客間から庭へ飛出した祐吉が、門を出て坂を下りようとしていると、向うから鞄を抱えた中年の男が近寄って来て、
「些っとお伺いしますが、平野さんのお屋敷の方ではありませんか」
「そうです、何か御用ですか」
「種田さんは被居るでしょうか」
「京ちゃんは浜のホテルの方ですよ」
「ホテルにはいないんですが」
着古した洋服、抱えた折鞄、どことなく眼つきの悪い下品な男である。――祐吉は無遠慮にじろじろ見ながら、
「京ちゃんに何か用があるんですか」
「はあ、――少しその……」
「僕が取次ぎましょう、やがて此処へ来るでしょうから」
「然し、そうですな」
男は些っと考えて、
「では斯う仰有って下さい。蔦屋で午後五時まで待っています。五時までにおいでがなければ断然東京へ帰ります」
「一体なんの用事かね君」
「学校の友達で井上だと云って下されば分りますよ」
男は冷笑するように云うと、そのまま元の道を引返して行った。――厭な奴だ! そう思った祐吉は裏道の急坂をとっとと村の方へ下りて行った。今日は東京の母からお小遣を送って来たので、郵便局へ替えに行く積りなのである。……然し、途中まで来た時、
「まてよ、彼奴――何者だろう」