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てんぐいわのさつじんま
天狗岩の殺人魔
山本 周五郎
「少年少女譚海」1938(昭和13)年春の増刊号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,872 字 · 18 页
アレアレ墜落する天狗岩
交通が不便な場所だし、軽馬車を一台造らせて、この馬をつけては折々のドライブを娯みにしていた。――下男はその内の一頭「ルビイ」というのを曳出して来た。
「ええ、鞍なんぞ要らん」
祐吉は裸馬の背へひらり跨がると、側に伸びていた梅の枝を折取って鞭代り、ピシリとひと当て呉れて――驀地に門から出て行った。まるで疾風のような速さである。
門を出て右へ、だらだら坂を下ると、村とは反対の方へ、海沿いの静かな道が坦々と続いている。それは東の半島をぐるりと廻って、下田港の方まで伸びているのだが、危険な崖道なので乗合自動車などは通らない。然し風景は美しく、四辺も静かなので、平野氏はその道を馬車で乗廻すのが好であった。――祐吉は続けさまに鞭を鳴らしながら、馬を煽り、狂気のように疾駆して行った。
「もっと早く、ええ畜生、それっきり走れないのか、もっと早くそらッ」
アラブ種の名馬も遉に泡を噛み、蹄で砂利を蹴散らしながら駈けに駈けた。――道は幾曲り、半島へかかった。と……向うの岩角を今や曲ろうとしている馬車、
「あッ、伯父さーん」
祐吉は馬上に絶叫した。
アレアレ墜落する天狗岩
「ああ、間に合った。