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あまくさのはる

天草の春

長谷 健

「九州路抄」日本交通公社、1948(昭和23)年9月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,293 字 · 15 页

青空文庫

船は、無人島らしい島々の間を紆余曲折していく。私は、移り行く風景の面白さに、時に松島を思い、時に瀬戸内海を航行した日のことを、思い出しながら、吹きつける北風と、舷側に散る水沫をさけていた。

大矢野島と千束島(この島は天草の乱の策源地といわれている)の間をぬけ、やがて上島近くにさしかかると、雲はいく分切れ、風も弱まつたようであつたが、波はいよいよ高く、時にもり上がるうねりに乗上げると、からだの中心を失いそうにさえなる。同時に、さつと白い飛沫がとび散る。外海――といつても有明海だが――に出ると、波のうねりは一段と高くなり、この位の連絡船では、とてもおし切れそうにも思われない。本渡町までの予定を変更して、大浦に上陸させようとした船会社の処置もうなずけるのであつた。

船室の中に二十四五の、下手な化粧の女がいた。船員が右舷に行つてくれ、といくら頼みこんでも一人位いいじやないのといつて、いうことを聞かないその女は、眼鏡をかけ、いわゆる現代的な女のタイプであつたが、どこからか、大浦上陸後のニユースをもつて来て、しきりに甲高にしやべりちらしていた。大浦から本渡までのバスが来ないですつて、橋がこわれているから、歩かなくちやならないわ、こまつたな、本渡まで七里よ、あんたどうする、歩いたら七時間かかるわ、真夜中までかかるわ、