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あまくさのはる
天草の春
長谷 健
「九州路抄」日本交通公社、1948(昭和23)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,293 字 · 15 页
ともかく椿の多い島である。
夕刻、大浦を出て二時間ばかりで、下島への開閉橋を渡つた。町は思つたより奇麗であつた。この夜、蒼州湾に投宿した。
三月二十四日。
ゆうべ、土地の青年たちと、夜遅くまで座談会をしたので、思わず朝寝をしてしまつた。八時ごろ起出てみると、稀に見る静かな朝の光と、空の青さであつた。
毎日新聞のH氏のきもいりで、富岡町に行く手はずをととのえてもらい、十時のバスに乗つた。天草には、汽車電車の便はまつたくない。五人乗りの古風な馬車と、更生車と称する自転車にくつつけたサイドカー(?)が、近距離に行く交通機関であり、島中を縦横にかけめぐるのは、モーターバスだけである。縦横にかけめぐるといえば、いかにも便利のように聞えるが、南端の牛深には、日に一回しかその便がなく、富岡へも日帰りするつもりで行けば、四時間の余裕しかない。だが、交通機関についての意見は、しばらくおくとして、とりあえずその四時間を生かすことにした。
バスは、主として海岸線に沿つて、丘陵から丘陵へと上下しながら進む。沿道は、きのうの上島より、もつと春たけている感じだ。桜はも早満開を過ぎて葉桜に近く、桃の花もすでに花弁が色あせかけている。