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「ダブックウ」ひょうりゅうき

「太平洋漏水孔」漂流記

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 页

青空文庫

だけど、坊やだってそうは出ないよ」

人糞を、このんで食う泥亀をとっては、この数日間二人は腹をみたしていた。しかし彼には、この沼をわたる方法がない。こんなことなら、むしろ中央山脈中に、原始的な生活をしている、矮小黒人種の“Matanavat”の部落へゆけばよかった。と、此処へきてはや一時間とならぬのに、キューネの面は絶望に覆われてしまった。

すると、時々とおい対岸で、パタリパタリと音がする。その、なんだか聴きようによっては人間の舌打ちのように聴える音が、万物死に絶えた沼面をわたってくるのだ。と同時にそれに交って、小鳥のさけぶキーッという声がする。やがて、キューネがポンと手をうって、

「分った。ニューギニアの奥地には食肉植物の、『うつぼかずら』のひじょうに巨きなものがあるという話だったが……。そうだ、一番それを使って、この沼をわたってやろう」

やがて、ほそい藤蔓のさきに小鳥をつけて飛ばしているうちに、キーッという叫び声とともに、ぐっと手応えがした。たしかに、「うつぼかずら」の大瓶花が小鳥をくわええたにちがいない。とそれをキューネが力まかせに引くと、一茎の攀縁一アール(百平方米)にもおよぶと云う、「大うつぼかずら」