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たいへいようまじょう

太平洋魔城

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页

青空文庫

「出航用意!」

艇長ダンの声が聞えた。

太刀川の席のすぐ向こうに、艇長室があるらしく、彼の命令する声がひびいてくる。しかしこれはよく調べてみると、艇長室と彼の席のすぐうしろの壁との間に空気ぬきのパイプが通じていて、それがあたかも伝声管のような役目をして、向こうの声がこっちへ伝わってくるものだとわかった。

発動機は、轟々と音をたてて廻りだした。いよいよ太平洋を西から東へ、一万四千キロの横断飛行が始るのである。

「出航!」

号令とともに、飛行艇は海上をすべりだした。

スピードは、ぐんぐんあがる。

艇のあとにひいた夥しい泡が、はたとたち切れると、艇はすーっと浮きあがった。空中の旅が始ったのである。見下す海面は、ガラス板のように滑らかであった。

どこかで、無電をうっているらしい音が、しきりにする。

ふりかえると、いつの間にやら、香港一帯が箱庭の飛石のように小さくなった。発動機の振動が、微かに座席にひびいてくるぐらいで、全く快い空の旅であった。

酔っぱらいのリキーは、大きな鼾をかいて寝こんでしまった。老夫人もその隣で、じっと睡っているらしい。室内では、乗客たちがだいぶん落ちついて、あっちでもこっちでも、しずかな談話をはじめたり、チョコレートの函をひらいたりしている。