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たいへいようまじょう

太平洋魔城

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页

青空文庫

「何を、貴様、そんなうまいことをいって、おれはそんな手で胡魔化されないぞ」

「いえ、本当なのです。その少年の渡航料金は、ちゃんと支払われているのです」

「馬鹿をいうな。おれはそこにいる艇員が、密航者だといったのを聞いたのだ」

「いや、それは何かの間違いでございましょう。この少年の渡航料金はたしかにいただいてあります。艇長が申すのですから間違いありません」

「そんな筈はない。一体だれが渡航料を払ったのだ」

「だれでもかまいません。あなたには御関係のないことです」

「なにを。こいつが!」

叫びざま、リキーが艇長におどりかかろうとした時、

「リキー、その子供をお放しよ」

それまで隅っこに風呂敷のような布をかぶって、だまっていたケント老夫人が、かすれ声でたしなめた。

「ううん。ちぇっ」

リキーは舌うちしながら、にわかに見世物の象のようにおとなしくなった。それでも、なにかぶつぶついいながら、小脇にかかえこんでいた中国少年を、床のうえにどすんと放りだした。

「あっ」といって、中国少年は、その場に倒れた。

太刀川時夫は、そうなるのを待っていたかのように、前へすすみ出て、中国少年をおこしてやった。