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たいへいようまじょう
太平洋魔城
海野 十三
「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页
太平洋委員長ケレンコも、ピストルをにぎりなおして、艇員を見はっていながらも、やはりリーロフの身の上が案じられて、ともするとその注意力は、艇外にゆきがちであった。
それを待っていた者があった。
艇の後部にいて、さっき電話機で艇長とうちあわせた艇員の一団であった。彼らは、ひそかに操縦室の入口にせまり、ケレンコの前に両手をあげて、つったっている仲間たちの肩ごしに、ケレンコの様子をじっとうかがっていたのだ。
うちあわせた十分間は、もうすぎていた。
その中の一人、貨物係主任のレイという男が、この時うしろにむかって片手をあげた。
(おい、用意はいいか)
という合図だった。
レイの片手が、さっとおりた。
(それ、とびかかれ!)
五、六人のものが、ぱっとケレンコにとびついた。
「あ、こいつら、何をする!」
ケレンコはさっと身を横にひらいて、ピストルの引金をひいた。
カチリと音がしただけだ。しまったと、また引金をひいたが、これもカチリといっただけであった。三度めに引金をひこうとしたとき、おどりかかった艇員のために、またたくまに、その場におさえつけられてしまった。悪魔のごとく、おそれられている共産党太平洋委員長としては、あまりにあっけない捕らわれ方だった。