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たいへいようまじょう

太平洋魔城

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页

青空文庫

その時、人気のなくなったこの廊下へ、あわただしくかけこんで来た者がある。石少年であった。

「太刀川先生、早く……ほら、もうすぐ海におちる」

「おお、石福海か、ちょ、ちょっと待て」

しかし石少年は、ぐずぐずしていたら死ぬじゃないかという顔色で、太刀川青年の腕をぐんぐんひっぱる。

「よし、わかった。太刀川君、あとは君の天佑をいのるばかりじゃ」

事情を察した原大佐の声が聞えた。

太刀川も、ついにあきらめた。

「では大佐、さようなら。ごきげんよう……」

とたんに、飛行艇は海面にたたきつけられた。太刀川青年は、はずみをくらってあやうく、頭を天井にぶっつけそうになった。

出入口におしあっていた乗客たちは、いいようのない叫声をあげて、われがちに外へ出ようと争っている。海水はあけた扉から、どどどーっとながれこんで、みるみるうちに艇内は水びたしになる。

「ああ、だめだ、先生!」

「心配するな、しっかり僕の手につかまっておれ!」

太刀川青年は、そういって、すばやくステッキの蓋をすると、それを腰にさし、救命具をつけて、一つの窓をたたき破り、石少年とともにするりと艇外へ、くぐりぬけた。