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うしなわれたはんしん
失われた半身
豊島 与志雄
「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,545 字 · 21 页
彼女はおれより一つか二つ年上だろうか、まるで姉のようにおれの身なりに気を配ってくれた。おれの方からは、ただ閨の歓楽を報いただけだが、この取引では、むしろ彼女の方が得をした筈だ。おれの身辺の世話をやくことに、彼女は大きな自己満足を感じていたからだ。男めかけ、そんな気持ちは露ほどもなかった。然し、然し、実質的にはおれの方が得をした。この感じ、つまり恩義を受けたということは、拭い消しようがない。彼女が生きてる限り、そしておれが生きてる限り、それは消滅しない。今ここで、彼女を殺せるものなら……。
またまた、わーっと喚きたい、喚きながら駆け廻りたい……。
彼女はまだ泣いていた。見ていると不思議なほど涙が流れ出る。ハンカチはぐしょ濡れだ。
「ごめんなさい。あたしわるかったわ。でも、あなたを誘惑するつもりではなかった。ほんとに好きだったの。この、好きだって気持を知ったこと、感謝してるわ。ね、分って下さるでしょう。」
ちきしょう。おれとしたことが、ふっと涙ぐんできた。もうやぶれかぶれに酒だ。そして喚いてやれ。わーっ、わーっ、と喚いてやれ。そうだ、あの時、あの女も喚いた。