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きかいなさいかい

奇怪な再会

芥川 竜之介

「大阪毎日新聞夕刊」1921(大正10)年1、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,996 字 · 43 页

青空文庫

所詮犬は飼えないのが、持って生まれた因縁かも知れない。――そんな事がただ彼女の心へ、絶望的な静かさをのしかからせたばかりだった。

お蓮はそこへ坐ったなり、茫然と犬の屍骸を眺めた。それから懶い眼を挙げて、寒い鏡の面を眺めた。鏡には畳に仆れた犬が、彼女と一しょに映っていた。その犬の影をじっと見ると、お蓮は目まいでも起ったように、突然両手に顔を掩った。そうしてかすかな叫び声を洩らした。

鏡の中の犬の屍骸は、いつか黒かるべき鼻の先が、赭い色に変っていたのだった。

十一

妾宅の新年は寂しかった。門には竹が立てられたり、座敷には蓬莱が飾られたりしても、お蓮は独り長火鉢の前に、屈托らしい頬杖をついては、障子の日影が薄くなるのに、懶い眼ばかり注いでいた。

暮に犬に死なれて以来、ただでさえ浮かない彼女の心は、ややともすると発作的な憂鬱に襲われ易かった。彼女は犬の事ばかりか、未にわからない男の在りかや、どうかすると顔さえ知らない、牧野の妻の身の上までも、いろいろ思い悩んだりした。と同時にまたその頃から、折々妙な幻覚にも、悩まされるようになり始めた。――