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きかいなさいかい

奇怪な再会

芥川 竜之介

「大阪毎日新聞夕刊」1921(大正10)年1、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,996 字 · 43 页

青空文庫

そうして何を云うかと思えば、『お前も来てくれたのかい? 随分ここまでは遠かったろう。何しろ途中には山もあれば、大きな海もあるんだからね。ほんとうにお前に別れてから、一日も泣かずにいた事はないよ。お前の代りに飼った犬には、この間死なれてしまうしさ。』なぞと、夢のような事をしゃべり出すんだ。が、小犬は人懐つこいのか、啼きもしなければ噛みつきもしない。ただ鼻だけ鳴らしては、お蓮の手や頬を舐め廻すんだ。

「こうなると見てはいられないから、牧野はとうとう顔を出した。が、お蓮は何と云っても、金さんがここへ来るまでは、決して家へは帰らないと云う。その内に縁日の事だから、すぐにまわりへは人だかりが出来る。中には『やあ、別嬪の気違いだ』と、大きな声を出すやつさえあるんだ。しかし犬好きなお蓮には、久しぶりに犬を抱いたのが、少しは気休めになったんだろう。ややしばらく押し問答をした後、ともかくも牧野の云う通り一応は家へ帰る事に、やっと話が片附いたんだ。が、いよいよ帰るとなっても、野次馬は容易に退くもんじゃない。お蓮もまたどうかすると、弥勒寺橋の方へ引っ返そうとする。それを宥めたり賺したりしながら、松井町の家へつれて来た時には、さすがに牧野も外套の下が、すっかり汗になっていたそうだ。