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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
05 代作恋文
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,830 字 · 24 页
書き終って終りに「幽里子」と署名する代りに、なんと彼の万年筆は「南次」と署名してしまったのです。
それから十五本目を、そしてあの騒ぎのあった日から半月目には、東野南次の宛の無い手紙は、二十本目を書いているのでした。署名は相変らず「南次」と書きましたが、この時ばかりはなんのはずみか、宛名を幽里子様と書いてしまって、ハッとした心持でそれを隠しました。恐ろしい冒涜に対する自責の心持が、東野の感じ易い心をチクチクさいなみます。
ちょう度その時でした。
エレベーターの扉が開いて、部屋の前に近づく足音、それもひどく乱れ勝ちに聞えたと思うと、
「御免――あ、そ、ば――」
たえだえの声がして、バタリと物の倒れる音がするではありませんか。
驚いて飛付いた扉、力任せに引くと、部屋の中に轉げ込んだのはなんとあの青磁色の洋装――幽里子の息もたえだえの姿だったのです。
「どうしました、幽里子さん」
東野南次はそれを抱き上げると、兎も角、窓際の椅子まで運んで来ました。
「あッ痛、痛」
ひどく苦しそうです。
「何うかしましたか」
「――――」
が幽里子は返事もなく昏々として東野南次の腕に倒れるのです。