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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

13 食魔

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,235 字 · 22 页

青空文庫

別室――といっても、伯爵の私室に導かれた葉子は、たった一つの入口の、厳重な樫の扉に、ピンと鍵をかけられて、どんなに驚いたことでしょう。

伯爵は戸棚からヴェルモットのビンを出して、葉子にもすすめながら、長椅子に押し並んで掛けました。

「葉子さん、私は破産してしまいました。――が、まだ貴女の独唱会に、経済的な援助をする位の力はあります。それは兎も角として、今晩は是非貴女のお返事を聴して頂きたいのですが――」

「――――」

葉子はふるえ上りました。伯爵はこの一年間執拗に葉子を追い廻して、求婚しているのでした。

「葉子さん、貴女はなんと言おうと、この海蔵寺三郎の恋人に違いありません。それは宿命的な約束で、人間の力ではどうすることも出来ないのです」

「いえ、違います。私はお約束した覚えはありません――、お話は次に伺うとして、今晩はこれで失礼さして頂きます」

葉子は飛退きました。海蔵寺三郎の眼の中に恐ろしい――気狂い染みた光を見たのです。

「いや、貴女は私の恋人に相違はない。私は、私は」

「あれエ」

「先刻最後の望みが一つあると言った、――それは、貴女の、――私の恋人の心臓が食べたいのです」