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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

13 食魔

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,235 字 · 22 页

青空文庫

三

――ところで、今でもそのライス・カレーを食べているかと仰しゃるのですか。いや飛んでもない、その小料理屋、亭主とお神さんと汚い娘と三人でやっていた西洋料理屋は、大正の初め頃には廃業してしまい、私のライス・カレーに対する情熱も、それっきり褪めてしまったのであります」

江守銀二はそう言って、ライス・カレーの詩でも作りそうに、斜に天を仰いで沈吟しました。

三

「私は草深い田舎で育って、二十歳近くになってから、初めて電灯や電話のある大都会に出て参りました。そのためか、私の舌は都会の食物に対して、すべて好奇心と情熱とに燃えました。私は二十歳近くになってから、初めてバナナというものを食べ、世の中にかくも美味な果物があったのかと、つくづく造化の神を讃美する心持になったことがあります。物の味と連想も、先程申上げた通り、私の興味を大きく支配して、キャラメルをしゃぶると、日本アルプスの遭難を思い出し、塩味のうどんかけを食べると、大和めぐりの貧乏旅行を思い出します」

江守銀二の奇抜で馬鹿馬鹿しい話は、五人の聴き手の興味に頓着なく、なおも傍若無人に続きます。

「世の中には、聴覚型の人と視覚型の人とあり、或は眼の記憶や判断にすぐれ、或は耳のそれに偏すると言われますが、私をして言わしむれば、嗅覚型の人も、触覚型の人も、味覚型の人もあるわけ