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おくのうみ
奥の海
久生 十蘭
「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页
話に聞く、冥土の朝景色は、こんなふうでもあろうかと思うばかりだった。
利根の水際に、何百人とも知れぬ人間が転がっていて、ときどきだるそうに起きあがって水を飲む。
渡守の話では、水を飲む力があるうちは、あんなふうにしていて、いよいよ最後だと思うと、川に身を投げるのだ、といった。
離散したのか、死に絶えたのか、人気のない村があった。いましがた家を出て行ったというように、雨戸も障子も開けはなされ、背戸に、あじさいの花が咲いている。喜連川から郡山までの間に、そんな村がいくつもあった。
郡山の目抜の辻に大釜をすえ、なにかさかんに煮くたらし、茶碗を待った世話人が、
「御接待、御接待」
と通るものに呼びかけている。なにを接待するのだろうとのぞいて見ると、白湯が湯玉をあげてたぎっているだけであった。
郡山をすぎると、いよいよ話通りの地獄めぐりになった。
福島から笹木野に分れる石高道に、肋骨ばかりに痩せさらばえたのが、幾十人となく倒れている。足音をききつけると、枯葉のような薄い掌をさしのべて、
「おくれ、おくれ」
と消えるようにつぶやく。
かまわずに進んで行くと、往還の両側の薄闇の中から、いくつも手が出る。