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おくのうみ

奥の海

久生 十蘭

「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页

青空文庫

それがすすきの穂でもそよいでいるように見える。米所の酒田や新庄から下ってくる運送をここで待ち受け、ひと握りの米の奉謝にあずかろうと、命のあるかぎり、いすわっているのである。

またしばらく行くと、谷川のそばの萱だまりに、足だけ見せて倒れている、四、五人の男女の一組があった。

本土の北の果からでも来たのか、長旅の末にわらじを切らしてはだしになり、青い瓢箪のような足の裏を見せている。福島あたりまで行けば米にありつけると、はるばるここまでやってきたのだが、力尽きて動けなくなったものらしい。

金十郎が、どこの辺から出て来たのか、と声をかけると、もしや奉謝にあずかれるかと、おれは斗南から、わしはどこどこからとつぶやく、

そのなかに京なまりの女の声を聞きつけた。金十郎はわれともなく声のしたほうに行き、五日月の淡い月の光にすかしてみると、猟師のように髪をつかみ乱して荒繩で束ね、垢づいた布子を着て、すさまじい男の恰好になっているが、顔を見れば、まぎれもなく年若いむすめだった。

聞いてみると、去年の夏ごろまで京に住んでいたものだと、かぼそい声でこたえたが、言葉の端々に、隠そうにも隠しようのない、ゆかしい調子があった。