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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
そんなにガタガタふるえることないわよ」
「そうですか。安心しました」
寺田は水をかけられて生き返り、スゴスゴと戻った。
歌子が存八に愛情をいだくようになったのは、釜の前でガタガタふるえている存八を見てからであった。彼女は生れてはじめて、父親以外の男にシンから可愛いと思う情をいだいた。そのとき歌子二十五、存八四十二であったが、この愛は順調には育たない。
★
朝之助はある日ふと気がついた。歌子の太刀筋が鋭くなったのである。特に存八をあしらう時に鋭気が一段と光り発するようである。
以前の歌子は打ちかかる存八を下僕のようにあしらっていた。下僕と思えばこそ、彼を打ちすえるにも手心を加え、いたわるところがあったのである。今ではちがう。門弟に稽古をつける鋭さである。否、ともに技をはげみ、みがこうとする必死の真剣さだ。
朝之助は自分の境地をかえりみて、これは変だと思った。即ち彼自身、存八を下僕と心得ていたころは特別な心が起らなかったのであるが、次第に見どころある奴と思うようになるにつけ、彼を上達させたい気持が生れた。これは門弟に対する自然の情である。