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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

バッタリ倒れて身動きのできない寺田に、存八が言った。

「左手だから、それほどのことはなかろう」

存八は道場の片隅へ去り、すでに余念もなく人形に向って突きの稽古をはじめていた。

★

小山内朝之助と高弟歌子の愛慾と苦業は夜となく昼となく打ちつづいていた。

朝之助の稽古は激しかった。わが身をむちうつように荒れ狂うのだが、どこかの心棒が抜けているのか、充実の欠けるところが感じられて、不足と不安定に悩むのだ。どうにも気合が行き渡らない。身と剣の一如の動きに澄みきった真空を感じることができないのだ。「愛慾のせいだろうか」ということを何より先に気にかけずにいられないのは当然であったが、それならば歌子もそうでなければならない筈だが、歌子は日頃にまして殺気充実、すさまじい限りである。

「すぐる二十五年前、オレがこの山中にはじめてこもって法神流の玄奥を自得して以来、このような不満は絶えて覚えたことがなかった。あれから今日に至るまで一日たりとも稽古を怠ったこともなく、病気をしたこともない。のみならず昨今は特にきびしく身を鍛え稽古にうちこんでいるのだが、それでいてこの有様だ。