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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

してみれば……」

これはどうしても邪恋のタタリだ。そうとしか思われぬ。それにしては歌子の殺気のすさまじさ、気合の充実、飛燕の動き、どうにも理解に苦しむところだ。

山中に苦業して鳥獣をくらうというと、いかにもその生活は乞食まがいで垢は身につもって異臭を放つような怪しさを考えがちだが、実は浮世の生活よりも清潔なのだ。

まず朝夕に滝にうたれる。これを苦業のうちというのは俗人のことで、下界の沐浴に当るものというでもないが、これぞ山人一体の境地であろう。口中に滝の水をふくんで心ゆくまで山気を身の深奥に至るまでひたす。両眼をひらいて滝の水を吸わせる。クソも水中に於て行う。人界の営みとはおのずからに異って、すべては山気の一端であり、クソにもイバリにも人間の卑小感は失せきっている。

ある白昼、朝之助は歌子から離れて、ひとり滝壺へ降りた。身に清浄の足らぬものが感じられて、垢の重さにたえかねて腰の曲った老爺の如くに心が暗く重いのだ。

ひとつ心棒の足らぬものとは、これではないか、ということが、朝之助はふと気がかりになった。彼はツと滝の裏へ隠れた。

彼は水中の岩に腹をのせ、フグリを掌の上にのせてシミジミとうち眺めた。