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じょよう
女妖
江戸川 乱歩
01 前篇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,691 字 · 20 页
彼がまだ悪事を働かない前、やはり銀座で、行きずりに三度会ったことがある。三度ということをハッキリ覚えていた。一度は彼女が落とした黒い手袋を拾ってやったことがある。その時、彼女は美しい唇で「ありがと」と云って彼の顔をじっと見た。どこか贅沢な家庭の奥さんらしいが、その顔と姿は、いつまでも忘れられなかった。
浩一はフラフラと、その喫茶店へはいって行った。婦人のそばまで行って、となりのテーブルに席をとった。そして、婦人の顔をまじまじと見つめていた。すると、ふしぎなことが起った。まるで、お伽噺のような、ふしぎなことが起った。その美しい婦人が浩一にニッコリ笑いかけたのだ。
「前に二三度、お目にかかったわね。よく覚えているでしょう」
浩一はドギマギした。こんな親しげな口をきいてもらえるとは、想像もしていなかった。それに、先方でこちらをよく記憶していてくれたことがわかって、ジーンと耳鳴りがした。顔が赤くなったのが意識された。
「こちらへ、いらっしゃらない? あなたの目、今日は変よ。何かあったんじゃない?」
顔で隣の椅子へ来るように合図されたので、浩一はそこへ移った。