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じょよう

女妖

江戸川 乱歩

01 前篇

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,691 字 · 20 页

青空文庫

彼はお伽噺の主人公であった。お伽噺の中では、或いは映画の画面では、浩一に当る青年は、どんな仕草をするのだろうと思ったりした。

「ぼくは、親も兄弟もないんです。伯父の世話で大きくなったのですが、その伯父も独り者なんです。伯母は早くなくなったのです。この伯父とぼくは、全く気が合わないのです。ぼくは自転車の卸しをする店に勤めていたのですが、その店も、ゾッとするほどいやなんです。それで、やけくそになったんです」

「それで、お金を盗んだの?」

「伯父のへそくりです。伯父の全財産です。伯父は紙袋を貼る機械を一台持っていて、やっと暮らしているのです。コツコツ貯めた、伯父にとっては命よりもだいじな金です。ぼくは、伯父が隠していた銀行の通帳とハンコを探し出したのです。十万円ほどありました」

「それを遣いはたしたのね。楽しかって?」

「いつも自殺する一歩前でした。これがなくなったら自殺するという考えは、甘い楽しいものですね」

その時、婦人は妙な薄笑いを浮かべた。同類の笑いであった。浩一が婦人の前で、何でも喋べれるのは、そういう同類感を、彼の方でも直覚していたからだ。

「盗んでからどのくらいになるの」