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じょせい

女婿

佐々木 邦

「主婦之友」1925(大正14)年9月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,954 字 · 43 页

青空文庫

――咳嗽噴嚔をする時は布片又は紙などにて鼻口を覆うこと――とある。嚔はその方針を一々電車の掲示に指定して置くほど人生の大問題だろうか? 鼻腔に故障のない限りは、頼まれても然う無暗に出る筈のものでない。然るに当時は嚔から世界風邪が感染したのである。西班牙人の男性か女性か知らないが、第一回に嚔をしたものゝ上に百千の呪いあれ! 嚔はその処置を市当局で斯くの如く制定するほどの重大事件になった。この要旨を布衍して、命を惜しい人は皆烏天狗のようなマスクをつけて歩いた。恐水病の流行った頃口籠を篏められて難渋したことのある畜犬共は、

「はて、到頭人間もやられたわい」

と目を見開いて快哉を叫んだと承る。この流感が猖獗を極めている最中に清之介君は結婚式を挙げたのである。

嫁の座に直った時、支配人の令嬢妙子さんは、姫御前のあられもない、極めて大きな嚔を一つして、唯さえ心恥かしい花の顔容を赤らめた。しかしその席に列していた父親は、

「はゝあ、娘は何処かで褒められている。今朝の新聞にも娘の結婚のことが出ていた。虎の門出身の才媛として写真まで載せてあったから、今頃は彼方此方で器量を褒めているのだろう」