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おんなごころしゅうい
女心拾遺
矢田 津世子
「文学界」1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页
それが、この頃では興がのって工場の方までも見廻るという調子である。
「そんなに御無理をなすっては、お体にさわりましょう」
老夫人の伊予子が宥めるようにこう云うのを、唐沢氏は大きく手を振って、
「なあに、これしきのこと。儂の体はまだ老耄れてやせんぞ」
と身をもんで、わっはっはっと高笑いをするのだった。
唐沢氏がこんなにも上機嫌なのは稀らしいことである。老夫人の伊予子には、それが嬉しいというよりも、何かちぐはぐな不安な感じが先きにくる。一体に明るい性分ではあるけれども、身をもんで高笑いをするというようなことは、これまでに無いことだった。裡に盛りあがってくる活動力の愉しさが、つい笑いになってこみあげてくるという風である。この変りようが老夫人の心を妙に落付かせない。ひとつには、この頃特に目立つ唐沢氏の劬り深さということにも、夫人の心は拘泥りをもつのである。元から優しい方ではあるけれど、それが近頃は故意に、その優しさを誇示しているようなところがみえる。
出社前のいっ時を庭へ下りて万年青をいじるのが慣しの唐沢氏は、今朝も、屋根のかかった万年青棚の前にしゃがんで水にしめした筆の穂で丹念に葉の間の埃りをはらっていたが、ふと、縁に立った老夫人の気配に振りかえって、