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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

「文学界」1936(昭和11)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页

青空文庫

「どうだね、この入舟の光沢は」

自慢げに背を斜に反らせて、足元の万年青鉢へ眺めいる恰好になった。

「まあ、傍へ来て儂の手入れぶりを見てごらん」

云ったかと思うと、性急に飛石を渡ってきて、自分から庭下駄を揃えてやり、リュウマチで足の不自由な老夫人の庭へ下りるのを扶けて、手をひいてやりながらそろそろと万年青棚の前へつれて行く。その良人の掌の温みに夫人はまごついて、何度も飛石につまずいては蹣跚けた。そして、唐突なその劬り深さから遠い記憶が徐かに甦えってきて、夫人は捜るように、和んだ良人の横顔を見やるのだった。

良人が常にもまして優しく、こまやかな情愛をみせるような時には、蔭に必らず女出入りがある、――それが、これまでの例であった。そんな折り、故意にみせる優しさというのも、心底から夫人への償いに動かされているというよりは、放蕩で穢れた自分を浄めるための、それが罪滅しのようであった。唐沢氏の関心をもつ婦人というのは主に玄人筋で、それも、ひところは柳橋の小若というのへ入れあげて、おさらい時には踊り衣装の一式を自分で見立て、京都へ誂えてやるという執心ぶりだった。