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ようふんろく
妖氛録
「中島敦全集 第四巻」文治堂書店、1959(昭和34)年6月刊
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 5,005 字 · 11 页
こんな不祥な女が又とあるものではない。天下に美婦人は多い。何もあの女に限ったことはあるまいに。」妙な虚栄から、子反は渋々思い止まった。結局、夏姫は連尹の襄老に与えられることになった。夏姫は大人しく襄老の妻となった。此の女程、与えられたものに従順な者は無い。それでいて、何時の間にか、自らも意識することなしに、その与えられたものを狂わし、濁らして了うのである。
翌、周の定王の十年、晋・楚の大軍が※の地に戦い、楚軍は大いに敗れた。此の戦で、襄老は戦死した上、尸を敵に取られて了った。
襄老の子、黒要は既に逞しい青年である。夫の死を忘れ、父の死を忘れ、喪服を着けた夏姫と黒要とは何時か、妖しい愉しみに耽り出した。
先に、荘王と子反とを諫めた申公巫臣が、漸く夏姫に近づいて来た。老練の策謀家らしく、彼は、直ぐには夏姫を独占し触れようとしない。巫臣は莫大な黄白を散じて、彼女の故国鄭に計を施した。彼の立場として、楚国で夏姫を娶るのが無理なことは、明らかであったから。やがて、鄭から楚国に通知が来た。さきの楚の連尹、襄老の尸が晋から鄭国に送られることになったから、夏姫は鄭に来って夫の尸を迎えよ、というのである。