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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

」

ミネは驚いた。妹ながら呆れた。自分をいじめているとしか思えぬ。こんなことで自分のうけた打げきは棒引にはならぬといっているようでもある。

「だって、ミシンがあれば、その日からでも働けるでしょう。」

「なくたってやってゆけるわ。」

「あったら困るの。」

ミネがにやにやすると、閑子はますますむつかしい顔をし、

「困らないけど、人のもの借りるのがいやなのよ。」

「あげるっていわなくちゃならんの。」

さすがにミネは腹立たしくいった。ミシンは太平洋戦争の起る直前、アメリカにいる悠吉の兄からおくってくれたもので、七つ抽出の優秀品だった。くれてやるとはいえない義理があったのだ。しかし、もって帰ってつかっていれば、まさか返せとはいわぬことは考えられぬだろうか。ミネにすれば、せめてものそれが、彼女のために物質的につくしてやれる最大のものと思っていた。ミネの家の中の凡ての物の中でミシンはその最高の部類のものである。野村になら叩きつけられもしよう言葉を、ミネに向って閑子は投げつけているのだ。離婚と決って、野村から貞子を通して何か要求はないかと聞かれたとき、閑子は、百万円もらっても償われるものではないといって、はねつけた。