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さいのひみつばこ
妻の秘密筥
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页
それじゃ考えが狭過ぎる。戦争があっても、泰然自若としているのが大国民の襟度だ。事変は一時的のものだよ。無論これを凌ぐのに国家総動員で全力を尽すけれど、もう一方芸術も大切だ。文化のメートルになる仕事だから、一日も忽に出来ない」
「童画もかい?」
「二科会は童画の展覧会じゃないよ」
「僕は道で小便が出たくなっても、家まで凝っと我慢するんだけれどもなあ」
「何のことだい? それは」
「君の芸術的興奮は結構だけれど、表現についてもう少し考えて貰いたいというのさ」
「充分考えているよ。表現こそ芸術家の苦心の殆んど全部だもの」
「僕は往来で小便が出たくなっても、家へ帰ってから表現する」
「えゝ?」
「このところ小便無用花の山だ。世の中の美観を傷つけるような絵は描いて貰いたくない。僕の批評眼から見ると、多くの画家の絵は花の山に立小便に外ならない」
「…………」
木寺君は黙ってしまった。口惜しかったけれど、華族さんだから荒い言葉が出ない。花かざす大宮人の子は慎みが深い。
「好い加減にし給え」
と言って、但馬君が広瀬君の肩を突いた。温厚な木寺君の為めに義憤を感じたのである。坐っていた広瀬君は仰向けざまにひっくりかえった。