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さいのひみつばこ

妻の秘密筥

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页

青空文庫

独身者の僻論

頭の中で渦を巻いている。専門の文士が僕の顔を見ると、何か種はないかと訊く。僕はいつでも教えてやるのだ。常に探偵小説のテーマを考えているから、頭の働き方がシャーロック・ホームズ式になる。妻も、

「あなたは怖いようなものね。私の心の中が直ぐに分ってしまうんですから」

と恐れをなしている。現にこの間、妻や子供達と一緒にデパートへ行ってハンド・バッグの売場を通り過ぎる時、妻の歩調が急に鈍くなったから、お前はハンド・バッグが欲しいのだろうと言い当てゝやった。この話をしたら、但馬君は、

「おれだってそれぐらい分らい!」

と怒鳴りつけた。登山家は妙に気が荒い。

独身者の僻論

正会員は皆女房子があるけれども、準会員の広瀬君だけが独身者だ。これが又皆の気に入らない。独身者は世帯持と見地が違う。殊に結婚生活に関する広瀬君の批評は毒舌に近い。

「大勢の中に自分一人独身でいるのは、皆が船に酔ってゲロを吐いている時、自分丈け酔わないでいるのも同じことだ。自信がつくから頭が冴える。自然好い判断も出るというものだろう」

ゲロとは、生活に※※している形容だそうだ。これでは一問題起った。