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さいのひみつばこ

妻の秘密筥

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页

青空文庫

その反対に幾度もする奴があるけれど、僕は矢張り番数の利かない組だろう。その代り、その人は僕を絶対に愛してくれた。僕も絶対に打ち込んだ」

「驚いたな。君がそんなに熱誠を示すのは初めてだよ」

「学校へ帰ってから月に二回ぐらい文通をした。内証だ。頻繁だと見つかる心配がある。又夏休みが来て、会う瀬を楽しんだ。と言っても、謹厳なものさ。その人の妹と僕の妹が女学校の同級生だった。そんな関係だから、妹達を利用して会う。必ず手近に第三者がいるから苦しい」

「純潔ってことは認めてやる」

「先方はもう二十四になって、縁談が纒まっていた。僕達のは相思の間柄でも浮世の義理に妨げられた一例だ。若しお互に理智が発達していなかったら、心中騒ぎを仕出来すところだったろう。僕の家と隣とは親父同志余り仲が好くなかったんだ。毎回市会議員を争って、何方も落選していた。それに先方の娘は年が二つ上だから、僕の母は無論問題にしていない。僕は高等学校の三年生で、後一年と大学が三年ある。卒業まで待って貰うと、先方は二十八になってしまう」

「元来無理だったんだね」

「うむ。先方もそれを手紙に書いていた。それとなくあなたのお母さんの御機嫌を取っても一向察してくれませんと言うのだった。