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さいのひみつばこ
妻の秘密筥
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页
会社の方の成績も見るべきものがない。奥さんと油絵で光っている。
「木寺君の絵は童心が豊かで荒削りだから、僕達には分らないが、兎に角追々玄人離れがして来るようだ」
と仲間の広瀬君が言った。この男は物を貶す名人だ。童心が豊かで荒削りとは正に稚拙の意味である。
次は僕だけれど、謙遜の為めに譲って、海野君を推す。海野君は謡曲を余技とする。学生時代に謡曲の師匠の家の一間を借りていたのが切っかけになって、学業よりも謡曲に身を入れた。質も好かったのだろう。十数年本格的に鍛えているから、普通のモー/\連中とは違う。昨今は同僚の有志を指導している。決して出教授をしないという見識の高い先生だ。但し重役のところ丈けは仕方がないらしい。匿していても、重役の方で遠慮なしに喋るから分る。
「海野君は素晴らしいものだよ。会社をやめて師匠を専門にやった方が宜いかも知れない」
と褒めていた。
それから但馬君だ。この男は登山家として、広くその道の人達に知られているように主張する。一度雪の中で行方不明になって放送されたことがあるから、少くとも会社の人は皆知っている。幸いにして、無事に帰って来た。