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さいのひみつばこ
妻の秘密筥
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页
仕方がないから、金槌で叩き破る積りだったが、その金槌が見つからない。彼方此方探しているところへ家内が帰って来た。財布を忘れて行ったから電車に乗れなかったんだ」
「成程」
「秘密筥を持っているところを見つかってしまった。『あなた、何なさるの?』って、家内はひどく慌てゝ訊いた。もう仕方がないから、『この筥は何だ』と高飛車に出た。『何でもありませんわ』『何が入っている?』『何も入っていませんよ』『開けて見ろ』『あなたの御覧になるものじゃないんですから、堪忍して頂戴』と押問答が続いた。益※(二の字点、1-2-22)怪しいんだ。『よし、おれが開ける』と言って、火箸で抉ろうとしたら、仕方がなしに家内が開けた」
「赤いリボンの手紙の束かい?」
「僕もそうかと思って恐ろしかったんだが、何のことやれ、銀行の通帳だ。家内の奴、臍繰りを二百六十何円溜めていた」
「ふうむ」
「万一僕が失業した場合の用心だそうだ。長女の名前にしてあった。千円にしてから見せる積りだったと言う。天晴れ賢女だろう? 僕は頭が下ったよ」
「妙なところで惚気を聞かされた」
と海野君は驀地に逃げ出した。
僕は温泉土産の秘密筥と聞いて思い出した。