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さいのひみつばこ

妻の秘密筥

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页

青空文庫

極端な場合を挙げたので、普段はよく折り合っている。天狗の鼻が高くなると、広瀬君、兎角黙っていれない。

さて、どんじりに控えたのは僕で、探偵小説を余技としている。書くものばかりが文士でない。文学を味わうものは皆文の士である。そういう建前から、僕は読む方を主としている。書く方もやらないことはない。創作が三度雑誌に載ったから、木寺君の二科入選に一遍丈け勝っている次第だ。僕の本棚を見て貰いたい。日英米仏の探偵小説スパイ文学で汗牛充棟も啻ならない。ボーナスの半分が書籍代になってしまうから、妻から苦情が出る。その代り今に千古の傑作を書いて一遍で取り返す。現代の探偵小説家の中に知人がいて、それに種本を貸してやったことがある。本は貸すものでないそうだが、殊に文筆の士はズベラだと見えて、ナカ/\返してくれない。先頃銀座で行き会ったから、お茶を飲みながら催促したら、

「そうかね。そんなものを預かった覚えはないんだがな。原稿も? はてね」

と首を傾げていた。序に何処の雑誌へでもと言って原稿を渡して置いたのだが、それも失くしてしまったのらしい。

始終読んでいるから、僕の探偵小説やスパイ文学の知識は素晴らしいものだ。