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さいのひみつばこ

妻の秘密筥

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页

青空文庫

三十五までも独身でいる奴こそ精神的泥酔者だということに衆議が一決した。広瀬君は散々だった。社会一般が酔っ払っているなぞという暴論は通らない。渋々ながら主張を取消して、

「いや、冗談だよ。僕だって好い相手が見つかれば結婚するんだから」

と誤魔化した。それにも拘らず、

「おい。会をやろうよ」

と催促するのは、いつも広瀬君だ。独身者は話相手がなくて退屈するのだろう。その埋合せの積りか、会では一人で喋り続ける。相手代って主代らずだ。それも皮肉の連発だから、つい物議を醸す。

「僕達のは余技だから、これで通るんだよ。子供の時からやっている玄人には足許にも近づけない。僕は大師匠あたりのを聴いていると、もう謡曲なんかやめてしまいたいと思う」

と或晩海野君がツク/″\述懐した。

「それはそうだ。僕の絵なんかも余技だから認められる。専門にやったら、迚も飯の食える代物じゃない」

と木寺君が応じた。思いあがっている二人も時には冷静に自己批判をすることがあるのらしい。

「大師匠は十の時からやっている。それも元来質の好いのを認められてのことだ。子供の時からだと芸が身体の中に織り込まれて身体と一緒に発育する。