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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

「ううむ、」

と頭を掉ったので、すっと立って、背後の肱掛窓を開けると、辛うじて、雨落だけの隙を残して、厳しい、忍返しのある、しかも真新い黒板塀が見える。

「見霽しでも御覧なさいよ。」

と主税を振向いてまた笑う。

酒井が凝と、その塀を視めて、

「一面の杉の立樹だ、森々としたものさ。」

と擽って、独で笑った。

「しかし山焼の跡だと見えて、真黒は酷いな。俺もゆくゆくは此家へ引取られようと思ったが、裏が建って、川が見えなくなったから分別を変えたよ。」

そこへ友染がちらちら来る。

「お出花を、早く、」

「はあ、」

「熱くするんだよ。」

「これ、小児ばっかり使わないで、ちっと立って食うものの心配でもしろ。民はどうした、あれは可い。小老実に働くから。今に帰ったら是非酌をさせよう。あの、愛嬌のある処で。」

「そんなに、若いのが好なら、御内のお嬢さんが可いんだわ。ねえ早瀬さん。」

これには早瀬も答えなかったが、先生も苦笑した。

「妙も近頃は不可くなったよ。奥方と目配をし合って、とかく銚子をこぎって不可ん。第一酌をしないね。学校で、(お酌さん。)と云うそうだ。小児どもの癖に、相応に皮肉なことを云うもんだ。