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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
もう傍へ来そうなものと、閑耕教頭が再び、じろりと見ると、お妙は身動きもしないで、熟と立って、臈たけた眉が、雲の生際に浮いて見えるように俯向いているから、威勢に怖じて、頭も得上げぬのであろう、いや、さもあらん、と思うと……そうでない。酒井先生の令嬢は、笑を含んでいるのである。
それは、それは愛々しい、仇気ない微笑であったけれども、この時の教頭には、素直に言う事を肯いて、御前へ侍わぬだけに、人の悪い、与し易からざるものがあるように思われた。で、苦い顔をして、
「酒井さん、ここへ来なくちゃ不可んですよ。」
時に教頭胸を反らして、卓子をドンと拳で鳴らすと、妙子はつつと勇ましく進んで、差向いに面を合わせて、そのふっくりした二重瞼を、臆する色なく、円くって、
「御用ですか。」
と云った風采、云い知らぬ品威が籠って、閑耕は思いかけず、はっと照らされて俯向いた。
教場でこそあれ、二人だけで口を利くのは、抑々生れて以来最初である。が、これは教場以外ではいかなる場合にても、こうであろうも計られぬ。
はて、教頭ほどの者が、こんな訳ではない筈だが、と更めて疑の目を挙げると、脊もすらりとして椅子に居る我を仰ぐよ、酒井の嬢は依然として気高いのである。