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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
「酒井さん……」
声の出処が、倫理を講ずるようには行かぬ。
咽喉が狂って震えがあるので、えへん! と咳いて、手巾で擦って、四辺をしたが、湯も水も有るのでない、そこで、
「小ウ使いい、」と怒鳴った。
「へ――い、」
と謹んだ返事が響く。教頭はこれに因って、大にその威厳を恢復し得て、勢に乗じて、
「貴娘に聞く事があるのですが、」
「はい。」
「参謀本部の翻訳をして、まだ学校なども独逸語を持っていますな――早瀬主税――と云う、あれは、貴娘の父様の弟子ですな。」
「ええ、そう…………」
「で、貴娘の御宅に置いて、修業をおさせなすったそうだが、一体あれの幾歳ぐらいの時からですか。」
「知りません。」
と素気なく云った。
「知らない?」
と妙な顔をして、額でお妙を見上げて、
「知らないですか。」
「ええ、前にからですもの。内の人と同一ですから、いつ頃からだか分りませんの。」
「貴娘は幾歳ぐらいから、交際をしたですか。」
「…………」
と黙って教頭を見て、しかも不思議そうに、
「交際って、私、厭ねえ。早瀬さんは内の人なんですもの。」と打微笑む。
「内の人。」
「ええ、」と猶予わず頷いた。
「貴娘、そういう事を言っては不可ますまい。