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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
「それとも一円に幾干だね、それから聞いて屋賃の処を。」
「もう、私は、」と堪りかねたか、早瀬の膝をハタと打つと、赤らめた顔を手巾で半ば蔽いながら、茶店を境内へ衝と出る。
十三
どこも変らず、風呂敷包を首に引掛けた草鞋穿の親仁だの、日和下駄で尻端折り、高帽という壮佼などが、四五人境内をぶらぶらして、何を見るやら、どれも仰向いてばかり通る。
石段の下あたりで、緑に包まれた夫人の姿は、色も一際鮮麗で、青葉越に緋鯉の躍る池の水に、影も映りそうに彳んだが、手巾を振って、促がして、茶店から引張り寄せた早瀬に、
「可い加減になさいよ、極りが悪いじゃありませんか。」
「はい、お忘れもの。」
と澄ました顔で、洋傘を持って来た柄の方を返して出すと、夫人は手巾を持換えて、そうでない方の手に取ったが……不思議にこの男のは汗ばんでいなかった。誰のも、こういう際は、持ったあとがしっとり、中には、じめじめとするのさえある。……
夫人はちょいと俯目になって、軽くその洋傘を支いて、
「よく気がついてねえ。(小さな声で、)――大儀、」
「はッ、主税御供仕りまする上からは、御道中いささかたりとも御懸念はござりませぬ。