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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「お師匠さんでなくっても可いんです。お弟子さんがお在なら、ちょいと結んで下さいな。」

縋って頼むように仇なく云って、しっかり格子に掴まって、差覗きながら、

「小母さんでも可いわ。」

我を(小母さん)にして髪を結って、と云われたので、我ながら忘れたように、心から美しい笑顔になって、

「貴嬢、まあ、どちらから。あの、御近所でいらっしゃいますか。」

「いいえ、遠いのよ。」

「お遠うございますか。」

「本郷だわ。」

「ええ、」

「私ねえ、本郷のねえ、酒井と云うの。」

「お嬢様、まあ、」

と土間に一足おろしさまに、小芳は、急いで框から開ける手が、戸に掴まったお妙の指を、中から圧えたのも気が附かぬか、駒下駄の先を、逆に半分踏まえて、片褄蹴出しのみだれさえ、忘れたように瞻って、

「お妙様。」

「小母さんは、早瀬さんの……あの……お蔦さん?」

二十一

「いらっしゃいまし、」

と小芳が太く更まって、三指を突いた時、お妙は窮屈そうに六畳の上座へ直されていたのである。

「貴嬢、まあ、どうしてこんな処へ、たった御一人なんですか。途中で何かございませんでしたか、お暑かったでしょうのに。