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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
もとより、溝板の蓋があるから、ものの形は見えぬけれども、優い連弾はまさしくその中。
笑を含んで、クウクウと吹き鳴らすと、コロコロと拍子を揃えて、近づいただけ音を高く、調子が冴えてカタカタカタ!
「蛙だね。」
と莞爾した、その唇の紅を染めたように、酸漿を指に取って、衣紋を軽く拊ちながら、
「憎らしい、お源や…………」
来て御覧、と呼ぼうとして、声が出たのを、圧えて酸漿をまた吸った。
ククと吹く、カタカタ、ククと吹く、カタカタ、蝶々の羽で三味線の胴をうつかと思われつつ、静かに長くる春の日や、お蔦の袖に二三寸。
「おう、」と突込んで長く引いた、遠くから威勢の可い声。
来たのは江戸前の魚屋で。
二
ここへ、台所と居間の隔てを開け、茶菓子を運んで、二階から下りたお源という、小柄の可い島田の女中が、逆上せたような顔色で、
「奥様、魚屋が参りました。」
「大きな声をおしでないよ。」
とお蔦は振向いて低声で嗜め、お源が背後から通るように、身を開きながら、
「聞こえるじゃないか。」
目配せをすると、お源は莞爾して俯向いたが、ほんのり紅くした顔を勝手口から外へ出して路地の中を目迎える。