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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

ト今夜もばたばたと、上草履の音に連れて、下階の病室を済ました後、横田の田畝を左に見て、右に停車場を望んで、この向は天気が好いと、雲に連なって海が見える、その二階へ、雪洞を手にした、白衣の看護婦を従えて、真中に院長夫人。雲を開いたように階子段を上へ、髪が見えて、肩、帯が露れる。

質素な浴衣に昼夜帯を……もっともお太鼓に結んで、紅鼻緒に白足袋であったが、冬の夜なぞは寝衣に着換えて、浅黄の扱帯という事がある。そんな時は、寝白粉の香も薫る、それはた異香薫ずるがごとく、患者は御来迎、と称えて随喜渇仰。

また実際、夫人がその風采、その容色で、看護婦を率いた状は、常に天使のごとく拝まれるのであったに、いかにやしけむ、近い頃、殊に今夜あたり、色艶勝れず、円髷も重そうに首垂れて、胸をせめて袖を襲ねた状は、慎ましげに床し、とよりは、悄然と細って、何か目に見えぬ縛の八重の縄で、風に靡く弱腰かけて、ぐるぐると巻かれたよう。従って、前後を擁した二体の白衣も、天にもし有らば美しき獄卒の、法廷の高く高き処へ夫人を引立てて来たようである。

扉を開放した室の、患者無しに行抜けの空は、右も左も、折から真白な月夜で、月の表には富士の白妙、裏は紫、海ある気勢。