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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
「中央公論」1921(大正10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页
凡てを驚異しつつ凡てを取り入れてゆく、快活な晴れやかな四五歳の子供に、神経衰弱とは余りに滑稽な病気だった。而もその滑稽が、依子に於ては滑稽でない事実であるという所に、絶望的なものが潜んでいた。彼は敏子に来て貰おうかと思った。然しさすがに云い出しかねた。
その上、依子の病気は幸にもよくなっていった。熱が次第に薄らぎ、食慾もついてきた。幻を見ることもないらしかった。ただ元気は少しも回復しなかった。いつも室の隅っこにぼんやりしていた。兼子はそれを室の真中へ抱いてきた。彼はそれを負って庭を歩いた。然しいつのまにか、依子はまた片隅に縮こまっていた。何物にも逆らわなかった。何物にも冷淡だった。
「こんなでどうなるんでしょう。」と兼子は云った。
木きな不安が兼子の心を蔽いつつあるのを、彼ははっきり見て取った。然し彼自身もいつしかその中に巻き込まれていった。依子のことを彼女と話すのが苦しくなってきた。
彼はなるべく兼子の眼付がない隙を窺って、依子の側へ寄っていった。そして膝の上に抱いてやった。依子はじっと抱かれていた。然し彼が頬ずりをしたり頭を撫でたりすると、「いやよ、いやよ!」